ニュースの概要
イタリアの鉄鋼メーカーFeralpi Groupは、ロンバルディア州のLonato del Garda工場で、圧延前に鋼片(ビレット)を最終加熱する工程をガスから電気に置き換える実証運転を始めた。方式はジュール効果を使う電気伝導加熱で、ビレットに直接電流を流して内部から温める。建設用鋼材向けの産業利用としては欧州で初になると同社は説明する。試験では設備の性能と運転データを集め、将来の本格導入に必要な工程変更を見極める。ただし圧延ラインへの統合には課題も残る。
引用元: Feralpi、鋼材ビレットの電気式再加熱システムを実証運転(Yieh Corp. Steel News)
分析・見解
炉の外から温める時代から、鋼の中で熱を作る時代へ
従来の再加熱炉は、バーナーで炉内の空気を熱し、その熱をビレットの表面から内側へ伝える仕組みである。熱は表面から中心へゆっくり染み込むため、均一に温めるには時間がかかる。
電気伝導加熱は発想が逆である。ビレットの両端に電極を当てて大電流を流すと、鋼の電気抵抗によって材料そのものが発熱する。いわば電気ストーブではなく、鋼自体をヒーターにする方式だ。
加熱速度と歩留まりに現れる利点
鋼の内部で熱が生まれるため、昇温が速く、表面と中心の温度差も小さくなる。加熱が速いと、表面が空気に触れて酸化する時間が短くなり、表面に剥がれ落ちる酸化鉄(スケール)の発生が減る。スケールは材料のロスそのものなので、歩留まりの改善につながる。
炉全体を常に高温で保つ必要もない。ガス炉は止めると再立ち上げに時間とエネルギーがかかるが、通電式なら必要なときに必要な分だけ加熱できる。生産量の増減が大きい工場ほど恩恵が出やすい。
電炉メーカーでも残る最後のガス依存
Feralpiは電気炉で鉄スクラップから鋼を作る企業で、製鋼の段階はすでに電気が中心である。それでも圧延前の再加熱はガスに頼ってきた。鉄鋼業の排出削減では、高炉から電炉への転換が注目されがちだが、電炉化の後に残るこの加熱工程も、見過ごせない排出源である。
欧州では排出量取引の価格が高止まりし、ガス価格も2022年のエネルギー危機以降、不安定さが続く。電炉メーカーにとって、燃料のガスを電気に替えることは、環境対応であると同時にコスト構造の見直しでもある。ここに再生可能エネルギーの電力が組み合われば、圧延まで含めた排出が大きく下がる。
大電流設備を圧延ラインにどう組み込むか
課題は電力と設備の両面にある。ビレットは断面が大きく、短時間で千度超まで上げるには相当な電力が要る。工場の受電容量や契約電力、ピーク需要への影響は小さくない。電極とビレットの接触の安定性、温度の均一性、圧延機との搬送の同期も実用化の難所だ。
今回の実証が検証するのは、まさにこうした点である。ガス炉は連続的に大量の材料を流せるが、電気式で同じ処理能力を保てるかが、普及の分かれ目になる。実証は成功か失敗かの二択ではなく、どこまでなら置き換えられるかの境界線を引く作業になるだろう。
ビジネスへの影響
鉄鋼以外の熱処理業にも波及する可能性
今回の方式は、鍛造や線材、非鉄金属の加熱など、金属を高温にして加工する多くの現場に応用できる。ガス炉を使う中小の加工業者にとっても、他人事ではない。
設備更新の時期が近い企業は、いま見積もりを取る必要はないが、ガスと電気の将来価格、補助金、取引先からの排出量開示の要請を並べて試算しておく価値がある。大手の実証結果が出れば、設備メーカーが中小向けに小型化した製品を出す流れも想定できる。
設備投資の判断では電力契約まで含めて比べる
電化の検討で見落としやすいのは、設備本体の価格より受電設備と電力契約である。大電流を使うと基本料金やピーク時の負担が増える。夜間や再生可能エネルギーの余剰時間帯に加熱を寄せられるかで、運転コストは大きく変わる。
意思決定者は、燃料費の差だけでなく、スケール減による歩留まり改善、炉の待機損失の削減、排出量の削減分を合算して投資回収を見るべきだ。Feralpiが公表する運転データは、その試算に使える貴重な実測値になる。実証の続報を定期的に追い、自社の条件に当てはめて検討を進めたい。

